Dear 01 怪盗の子

   八、

 五人分の欲を順番に口に含んだ凪の瞳は生気せいきを失っていた。
 男のうちの一人が腕に身につける時計を確認する。既にうしの刻を過ぎている。「そろそろ行くぞ」と仲間に声をかける。他の四人は凪を持ち上げ、新しく張り替えたばかりの浴槽へ投げ入れる。その内二人は安そうなたわし、、、を手にして入念に体をこする。傷口は広がり、また新たな擦り傷を増やす。豊満な胸と乳首を弄ばれながら再び石鹸で泡だらけになっていく。あらゆる痛みに耐えられず次々と溢れる涙は頭上から被る冷水と共に流されていく。
 男達はわざと擦りつけるように乾いたタオルで水滴を拭う。皺だらけであるがそこそこ清潔そうな色をした白い布は朱色に染まっていく。
 男たちは鎖を引く。浴槽から移動し始める。右足は腫れあがり、左足は内出血を起こして青くなっている。凪はもう立ち上がることができず、四つん這いになるのが精一杯だった。男達は罵声と共に彼女を蹴りあげ前進するように誘導する。両手足を地面に擦りながら一歩ずつ前に出していく。
きたねぇ犬の散歩みてーだな」
 男達はゲラゲラと笑う。氷のように冷たい床と空気。体温は湯気と共に冷気へと消えていく。アルミ製の冷たい階段から落ちないように一段ずつ懸命によじ登る。ようやく最上段まで辿りつくと、人相の悪いヒトたちが凪を待ち伏せていた。彼女の周りへ集合する。彼女を囲い暴力を振るう。それでも前に進めと鎖を持つ男たちに誘導される。口から汚物が飛び散りそうになりながらも薄暗い倉庫の中を進む。
 黒で塗装された階段の前へ連れて行かれる。この段を上れと誘導される。再び一段一段よじ登る。アルミ製の階段と通路にそって進むと、真っ黒に塗装された扉が見えてくる。男の一人が扉を開く。別の男が凪の背後から蹴る。男たちは手綱を手放す。転がりこむように部屋の中へ入りこむ。力任せに扉が閉まり閉じ込められる。
 そこは執務室のような内装だ。部屋中、紫煙が立ち上り、鼻が曲がりそうなほど煙草のにおいは充満している。部屋の奥には二人の男性がいる。
 一人は大柄の男。頬に深く刻まれた刀傷と左右で異なる瞳の色。物欲に呑まれていそうな表情をしている。黒塗りの椅子に膝を組みながら煙草を吹かしている。
 もう一人は細身の男で、聖職者と思わせるような白いローブを着ている。下衆なことを企てていそうな醜悪な顔つきをしている。
 ローブの男は凪を見下しながら「クェイム」と一言紡ぐ。突如、凪の体は指先まで脱力する。四つん這いだった体は崩れてうつ伏せに倒れる。枷に重みを感じる。腕も足も自身では持ち上がらない。
 この枷の真名はクェイムだ。真名は天地創造の言葉であり、唯一無二の固有名詞だ。無機物でも個体ごとに異なる名を宿す。真名はその個体の全て、、であり、正しい方向に使用すれば最大限の効力を発揮することができる。
 大柄な男は椅子から立ち上がって凪へ近づいて行く。彼女の周りをぐるりと一周する。自身の顎に手を置き、少し伸びた髭を指先で弄りながら品定めする。
 凪の目前でしゃがみ込む。項垂れた頭を掴む。女がどのような顔の造形をしているかを確認し、眉間に皺を寄せる。暇を持て余す反対の手は地面で押し潰されている乳房を横脇から差し込み一方を鷲掴む。男の手のひらには収まらず指の隙間からはみ出る。弾力性と張りがあり、とても柔らかい。他人に触れられることへの嫌悪感で鳥肌が立つ。観察する男は満足そうな表情を浮かべる。
「こいつが噂の奴か。綺麗では無ぇし特別可愛いわけでも無ぇ。だが、体はありだな。前のアマよりは素材が良い。……娼婦にするのもありだな」
「娼婦で良いのですかね。この女は隷代れいよですよ」
 ────……れいよ?
 聞き慣れない単語だけが凪の耳の中でリピートされる。
「そうだな、こいつは怪盗コガラシ、、、、、、の娘だ。何をしても国からの支援や保証は無ぇし、ヒトなんかじゃねえ、、、、、、、、、
 男はクツクツと笑い、凪の首輪に手をかける。「芹沢」と、ローブの男に呼びかける。細身の男は淡々と天地創造の言葉を紡ぐ。
「クェイム、レハ、ザッラ」
 枷は意思を持つように動き出す。ダランと伸びた凪の手足を体の内側に寄せる。
 まるで犬が伏せるような体制となる。芹沢が片腕を上げればお尻を突き上げる形になる。
「怪盗……コガ……ラシ?」
 何のことであるのかがわからなかった。聞こえてきた単語を口ずさむ。
 芹沢と名乗る男は「隷代はニュースも知らないのか」と、哀れに思い馬鹿にして、所持する端末機に怪盗コガラシとキーワードを入力する。小さな写真が羅列する。それを凪に見せつけた。
「……お……とう……さ……ん?」
 白のタキシードに同じ色のシルクハット、モノクルを付けた壮年の男性。ある写真では見慣れない建物の上に飛び乗り、ある写真では美術品を片腕で持って全開に開かれた窓に足を掛け、ある写真では気球に乗って去る姿が写っていた。
 彼女が知る父親は厳格であるが常に穏やかな表情を浮かべる集落の長の姿だ。画像の父親は別人と思えるほど活き活きとした表情を浮かべ、犯罪に手を染めている。
「なん……で……」
 大柄の男は広角を吊り上げながら胸元から一枚、写真を取り出して眼前に突きつける。
 親子の写真だ。少し幼い凪と現在よりも少し若い父親の姿が納められている。背景に写るのは集落の直ぐ近くにある藤色の花畑だ。
「なんで……この……写真……」
「これは情報屋から買ったやつだ。これを複製し、部下にバラ撒いて捜させた。何度か似た奴を見かけたみてーだが、いつもギリギリのとこで逃げられたって報告を受けてんだよ」
 凪はその話に心当たりがあった。
 丁度五年前、突如集落が襲われた。以降、父親と共に町や村を転々とする。気に入った土地はいくつかあったが、慣れた頃になると「そろそろ移住しよう」と促される。渋々とその土地を離れていった。
 父親が失踪して以降。人相の悪い大人や山賊に凪の移住先を襲撃することが増えていった。その都度魔法を使い、今日こんにちまで必死に逃亡し続けていた。
「たまたま俺の部下がイズナでお前を見つけて上着にペイントを付けたそうだ。馬鹿正直なテメェは真っ直ぐフェレア向かってて笑っちまったったぜ。先回りしたコアントローの娘がお前を捕獲したわけだ」
 イズナは凪が山で彷徨う前に滞在していた村だ。男の話からすると前の村から足を追われていたということになる。
 それにな……と、男は続ける。
「コガラシにはがあるんだ。あの男に武器庫六つ破壊されてんだ。俺のポリシーはやられたら倍に返す。……だがな、コガラシを誘き寄せる計画を立ててもアイツは来ねぇんだよ!」
 男は怒鳴る。何かを思い出したかのように苛立つ。立ち上がり、腰ほどの高さの机の側へと寄る。拳で机上を叩きつける。机の木目に亀裂が入る。さらに一撃を加えると亀裂に沿って机は割れる。
「でもよ。可愛い娘の身に何かあれば流石に来るよな」
 男の言う“何かあれば”の意味を察してしまう。背筋が凍る。頭の中で身の危険を知らせるサイレンが煩いほど鳴り響く。
「コアントローの言うとおり、なかなかイイ体してやがる。楽しめそうだなぁ」
「……ぃ、……ヤ……いや……嫌ぁ!!」
 男を誘うように揺れる豊満な乳房と涙目ながら拒絶する表情。ししゃものような脹ら脛。女性らしさが引き立つ太めのももと丸みある臀部。男の目に映るそれは“傷モノだが食べ頃の果実”だった。
「……では、私はここで失礼」
「見ていかねぇのか?」
「私は聖職者、、、ですので。今回の協力における報奨金はジン様が愉しまれた後、改めて頂戴しに参ります」
 そのように言い残し、芹沢は部屋を後にする。芹沢の気配が遠くなっていくのを確認し、ジンと呼ばれた大柄の男は凪の背後へと回る。口笛を吹きならしながら大きな手で胸や臀部を握り潰すように揉む。
 痛みに堪え、下唇をキツく噛み締める。
 ジンは凪の両膝を左右に広げる。太い指で閉じた大陰唇を左右に広げる。粘質的で透明な糸が隙間にヒダを作る。小陰唇を男はなぞると指先に雌の蜜が纏わり付く。
「濡れやすいって報告は受けてたからな。助かるぜ」
 凪の背後で布擦れとガチャガチャと音を立てながら何かが外されていく。恐怖で真後ろにいるジンの様子を確認することができない。ベルトを通したままのズボンは下着と共に下ろす。凪の右脇に脱ぎ捨てる。
 陰茎は既に熱が集中し、反りあがっている。男の手は凪の両脇に添え、杭の先を蜜口へグッと押し込む。
「俺もしっかり溜めたからな。溢すんじゃねーぞ」
 細い通り道を押し広げる。体内へ入り込む気味の悪さが全身を突き抜ける。凪は喉が潰れそうになるほど悲鳴をあげた。
「うるせぇんだよ!」
 男は怒鳴り、丸い臀部を平手で叩く。痛みで体が強ばるのと同時に膣壁は男根を締め付ける。ジンは思わず熱い吐息を漏らす。陰茎はさらに堅さと太さを増す。
 言葉と体の暴力に疲れ果てた凪は抵抗を止める。拒絶心を押し殺す。痛くて辛くて歯を食いしばる。口内は血の味が広がっていく。
「はぁ……イイなぁ。今まで抱いた女以上の締め付けだ。ほら、聞こえるだろ? 厭らしい音を立ててるし液もボタボタ落ちてるぜ」
 男は欲に任せて腰を打ち付ける。粘質的な音に合わせて体液が交じり合う。煙草の臭いが混一する昂ぶる吐息と、背に落ちる大粒の汗。何もかも汚らわしくて吐き気を催してくる。嫌だ、嫌だと拒絶する気持ちとは真逆に摩擦し合う胎内からは熱が帯びてくる。内壁はようやく迎えた“男”を離すまいと喰らいつく。最後まで男の精を搾り取ろうと下腹部は痙攣を起こして締めあげる。足先から頭頂まで小刻みに震え、頭の中では大きな波が押し寄せる。甘い痺れが全身を走り抜け、体は大きく仰け反った。頭の中は白い光がチカチカと点滅する。
「本当に初めてかぁ?」
 ジンの一言で凪の意識はハッとする。気怠さを感じながらも顔は青ざめていく。まるで性行為に慣れている、、、、、、、、、かのようであった。
 何故なのか。凪はこの行為を幾度も経験したことがある、、、、、、、、、、、、気がした。体の異常さに気がつき自身を嫌悪する。
 ジンの息遣いの間隔が短くなりはじめる。男は恥骨部に力がこもり、苦しげな声を漏らしながら根元まで深く挿し込む。先端を子宮口に押し付けて、身を震わせながら欲望を吐き捨てる。快楽の痺れに浸りながら波打つ肉を静かに抜いていく。杭を失った膣口からは余り物が零れ落ちる。未だに反り返り剛直し続ける亀頭の先からは粘っこい白濁をだらしなく垂らす。
「ぜってぇ処女じゃねーな。ヤらなくてもよかったぜ。俺より先に気持ちよく、、、、、イったみてーだし。……血も出てねぇ、完璧だ。すげぇ締まって気持ち良かったぜ?」
「あ……あぁ……」
 凪は下腹部に残る熱以外、心と体が冷めきっていく。父親に混乱し、自身に混乱し、恐怖と望まない性行為で混乱する。ヒトとして生きることが辛くなる。
「こんなに気持ちいい女は久々だ。続けてヤらせろ」
 気持ちとは反比例に、行為に対し喜ぶ体は再び欲望を受け入れる。
 ────もう……“ヒト”がこわいよ……。

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