覚書

「何ニヤニヤしてるんだよ」
 そのように指摘されて朝日は我に返る。努に顔を向けるが、自宅のことを思い出し、また口元が緩んでしまう。
「聞きたいか?」
「聞きたくねぇけどとりあえず聞いてやる」
「凪が可愛いんだぞ」
 ──はぁ
 そんな気がしたと、心の中で思いながら親友の話を聞く。
「あんなに本邸で共に暮らしていたのにな。今になってもちょっと触れただけで頬は赤いし」
「リア充爆発しろ」
少し冷ために言い放つが、脳内がお花畑な男には効果なしだ。
「ただな……」
 朝日はそこで言葉を詰まらせる。何かあるのか。努は続きを促してみる。
「最近朝、直ぐに起きれないみたいだぞ」
「それはお前が夜に……ちょ……ちょめちょめしてるからだろ!」
「何恥ずかしがってるんだぞ童貞」
「うるせぇ!」
 コントのようなやり取りはここまでにして、朝日は続きを言う。
「まぁ、夜に可愛がっているってのもあるかもしれねーけど、それ抜きでも朝は少し元気が無いような気がするんだぞ。それに食欲もどこか落ちてるような気がするんだぞ。昨日は珍しくご飯を残した」
「……お前の料理なのにか?」
 鷹司の家で食事を摂るときには朝日の料理を美味しそうに食べていた姿しか見たことが無い努は、食欲が無い凪は想像が出来なかった。
「あと、ここ最近はずっと飴を舐めてるんだぞ。聞いてみれば口の中が寂しく感じる……とか」
「はぁ……」
 ──口の中が寂しい……。
 残念な童貞脳は艶かしい男女の接吻を思い浮かべ始めてしまう。嬌声な喘ぎ声の妄想も始まった時、現実に戻るように必死に首を振った。