覚書

 里見第二課一部隊。大粒の雨が窓ガラスを濡らす夜。朝日は部屋に備え付けられたソファにだらしなく横になった。朝は西に、昼は南に、帝都へ急いで戻って公務用の正装へ着替え、と五家で終わらない話し合い。夕食をとらずに里見へ戻れば山積みになった報告書と申請書。処理し終えればとっくの当に時計は次の日と差していた。
 同じ中央セントラルに鷹司家の住まいがあるとはいえ、この雨の中での帰宅は億劫に感じた。
 あぁ、こんな時に気が利くグラマーな美女がいたら、五感と欲は満たせるのに。
 珍しくも、そのような劣情が生まれる。

 穂たちとの旅を終え、世界を救った者として学院側で評価され、難関とも言われる七年生の最終考査を通過パスし、即戦力を期待されながら風導士補ふうどうしほとして里見へ入隊。二年の実務を積み風導士として登録後、父親である太陽が急死。家督を引き継ぎつつ、第一部隊の隊長としての役割も担う立場となった。当然、日に日にやることは増え、休む時間どころか睡眠時間も削られている。
 気が付けば仕事ばかりの日々になっていた。
 遊びたいという感情は全く湧かない。気を張り詰める毎日を過ごすうちに“楽しいと感じる心”はどこかへ去ってしまったようだ。
 腕に巻かれた通信機を起動し、画面に映り込む自分の顔を見つめる。いつからつまらない男に変わった?